【ドクターコラム】認知症は神様がくれたプレゼント
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「精神科疾患も診る外科医」として
私は胸部外科を専門とし、肺がんをはじめとする呼吸器疾患の治療や研究に携わってきました。会田病院では、心筋梗塞や糖尿病、高血圧など幅広い疾患を診るゼネラリストとして経験を積む中で、多くのがん患者さんが精神的な悩みを抱えていることに気づき、精神科領域の知識を深めました。認知症や精神疾患を併発するがん患者さんも診察しましたが、認知機能障害や精神症状が原因で受診をためらう人が多い現実も目の当たりにしました。
その後、上尾中央総合病院で救命救急や呼吸器科の医長を務めた際、認知症のがん患者さんが適切な治療を受けられず「医療難民」となってしまう問題に直面しました。こうした背景から、認知症を抱えるがん患者さんでも安心して治療を受けられる医療機関として当院が設立され、私は院長に就任しました。精神科・心療内科・内科を併設した約400床の施設で、がん治療後の認知症患者さんのケアも行い、地域との連携を築いています。
認知症患者さんの心理と心のケア
がん患者さんが抱える不安は、大きく次の3つに集約されます。
- 治療費を今後も支払えるかどうか
- 病気が本当に治るのか
- 自分を気にかけてくれる人がいるのか
これらの不安から、孤独感や「見捨てられる」ことへの恐怖を感じる人が少なくありません。こうした心理的負担を軽減するために、複数の診療科と精神科医が連携して行うリエゾン精神医療の重要性が高まっています。
ニューヨークのがん専門病院、メモリアル・スローン・ケタリング・キャンサーセンターが提唱する心のケアガイドラインでは、がん=死と決めつけず前向きな気持ちを持つことや、支援団体の利用、心のケアの専門家への相談を勧めています。特に、身近な人と一緒に医師の説明を受けることで不安を軽減し、治療への理解を深めることが大切です。
がん患者と認知症リスクの関係
興味深いことに、当院のデータや海外の研究では、がん患者さんはアルツハイマー病の発症リスクが低いことが示唆されています。アメリカの研究では、多くのがん生存者において、アルツハイマー病のリスクが有意に低いことが報告されました。これは、がんを促進する遺伝子や分子経路が神経保護に関与している可能性を示しています。
認知症を「神様がくれたプレゼント」と考える
認知症は脳の神経細胞が壊れることで、理解力や判断力が低下し、日常生活に支障をきたす病気です。進行すると、過去と現在の区別がつかなくなり、家族にとってはつらい現実が待ち受けています。しかし、患者さん本人はがんや死に対する恐怖から解放され、その時々を穏やかに過ごしているのかもしれません。がん患者で認知症になったことを悲観するのではなく、「神様がくれたプレゼント」とご家族が前向きに捉えていただくことは、医療者にとってもありがたいことです。
※掲載している情報は、記事公開時点のものです。
チェック
認知症と思われても、抗がん剤の副作用だったり、がん進行によるせん妄という状態というケースもあり、認知症と鑑別する必要があります。記事の続きとより詳しい全文は、こちらからご覧ください。